毎日新聞 2008年1月24日 東京朝刊 より
望月麻紀記者記名記事

<<デートDV>>
実態は 行動報告強要、金を返さない、避妊せず・・・
−−内閣府が初調査−−
 ◇暴力に発展のケースも
 交際相手の支配的な態度に違和感を感じながら、交際を続けている若者が少なくない。中には、「デートDV」(恋人による身体的もしくは精神的、性的な暴力)の域に達しているケースもある。内閣府の調査結果を参考に、実態と対応策を探る。【望月麻紀】


 ●言動で支配
 東京都内に住む20代女性は大学時代、難関大学に通う男子学生と付き合った。サークルの部長を務め、人付き合いのいい人だった。しかし彼女の前では「死にたい」と弱音を吐き、いら立った。言葉や体で慰めを求める一方で、人前では彼女をばかにする言動を見せた。

 それでも彼女は別れられなかった。「彼の弱さを知っているのは私だけ。救ってあげたい」と思った。また、ばかにされることで自分に自信が持てなくなり、彼のために尽くすことが唯一、自分の存在価値を感じられる場になっていた。

 9カ月の交際後、離別を切り出したのも彼の方だった。「殴るとかの暴力はなかったけれど、言葉や態度で彼から支配されていた」と、彼女は振り返る。

 ●恋愛=束縛?
 似たような交際を経験している若者は少なくないようだ。内閣府が昨年行ったインターネット調査でも「1日に何度も電話やメールで行動を報告するよう命じられた」などの具体例が寄せられた。

 調査は10〜20代の未婚男女を対象に、恋人から受けた行為を尋ねた。男性128人、女性130人が答えた。

 それによると「いつも気を使わされる」と回答したのは男性42%、女性25%。ただ「友達との用事を無理に断らされた」「貸したお金を返してもらえない」「避妊に協力してくれない」などの具体的な強制行為の経験は、女性の方が多かった。

 女子大でもジェンダー学を指導する沼崎一郎・東北大大学院教授(男性学)は「異性の友達が増え、友達関係との差別化のため『恋愛関係では束縛できる』と考える傾向は男女とも強い」と、最近の関係を分析する。その上で、行動を制限したり避妊をしないなどの行為については「恋愛上の『相互束縛』とは区別して考えた方がいい。こうした行為こそ本物のデートDV。見逃すと、傷害やストーカー殺人に発展する恐れさえある」と警告する。

 内閣府の調査でも、殴るけるなどの身体的暴力を受け、けがをした経験がある男女が各1〜2人いた。また▽「別れたら死ぬ」「家に火をつける」などの脅迫は女性5%、男性4%▽性的行為の強要は女性9%、男性1%−−が経験していた。

 ●携帯が助長か
 被害事例などをまとめた「デートDV」の執筆者で、DV被害者を支援する「NPO法人全国女性シェルターネット」の遠藤智子さんは「各地の支援スタッフからも『デートDVの相談が増えている』と聞く。加害者も被害者も生まないために、予防教育などの対策を急ぐべきだ」と警鐘を鳴らす。

 遠藤さんは、増加要因の一つに「携帯電話の普及」を挙げる。「いつも身につける携帯電話が支配を簡単にし、男性の暴力性を助長している」と言う。今回の内閣府調査でも「電話に出なかったり、メールにすぐ返信しないと怒られた」は男性45%、女性32%が経験。女性の11%と男性の4%が「1日に何度も定期的に電話やメールで行動を報告するよう命じられた」と答えた。女性の4%は専用の携帯電話を持たされていた。

 ただ、今回の内閣府調査は初の本格的な実態調査で、デートDV対策はまだ緒に就いたばかり。配偶者や内縁関係に限定されているDV防止法の適用対象を、恋人まで拡大するかどうかは今後の課題だ。自分自身はもちろん、家族や友人らの交際関係に「おかしいのでは」と疑問を持ったら、専門機関や警察に相談するよう、遠藤さんは助言する。

 シェルターネットは、DV危険度を示す恋人の行動のチェックリストを公表している=表参照。相談は、都道府県の女性センターや配偶者暴力相談支援センターなどで受け付けている。



 ■デートDV危険度チェック
 (全国女性シェルターネット作成、女性向け)
□いつも一緒にいることを要求する
□嫉妬(しっと)心が強い
□異性の友人との交流を許さない
□電話やメールが頻繁で、すぐ対応しないと怒る
□行動のすべてを知りたがる
□デートの内容は全部彼が決める
□服や髪形などで好みを押し付ける
□感情の起伏が激しく突然怒り出す
□手をつないだり腕を組んだりいつも体に触れる
□女性が意見を述べたり主張したりすることを嫌う
□女性の家族の悪口を言う
□交際相手を所有物のように扱う
□避妊具を使いたがらない
□別れ話になると「自殺する」と脅す
□重要な判断を女性に任せ「お前次第だ」と言う
 ※該当項目が多いほど危険度が高い